駄文

個人的備忘録

文士の時代

大学生の時に買った本がある。『文士の時代』という本だ。

 

 

文士の時代 (中公文庫)

文士の時代 (中公文庫)

 

 

昭和に活躍した文豪たちの写真と、カメラマン林忠彦氏と彼らとの思い出が綴られている文庫本で、これがなかなか面白い。 国語の教科書で使われているような写真も載っている。

 

被写体はさすが文豪ということもあって、写真一枚見ただけでもフンイキというものを感じられる。川端康成志賀直哉は特にそうだ。

 

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 林氏が「鷹のような目」と評する川端康成の目はとても鋭く、見つめていたらたじろいてしまいそうだ。それでいて吸い込まれてしまうような光を感じる。

 

この一冊でかなりの数の文豪の写真が見られるのだが私が特に惹かれたのが田中英光三島由紀夫の写真だ。

 

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田中英光

 

田中英光は教科書に取り上げられるような作家ではない。知らない人は知らないだろう。知っていたとしても、太宰治の死を引きずって、彼が眠る三鷹禅林寺墓前で自殺した人という位のイメージなんじゃなかろうか。私もちょろっとしか知らない。

 

田中英光の人生をまとめると、

兄の影響で共産党に入党し活動。

ロサンゼルス五輪のボート代表選手。

妻子がありながら、愛人と同棲。

太宰治の仕事、薬中毒になる。

太宰治の墓前で自殺。

 

こんなところか。

そして彼が死ぬ10日ほど前に撮られたのが林氏の撮ったこの写真。

林氏はこの時のことを

彼はグラス一杯の水はもらったが、酒は一滴も飲まなかった。 一升瓶に手もかけないのに酔っ払ってくるから変だなあと思ったら、ポケットから睡眠薬かなにかの瓶をひょいと出して、その瓶の半分くらいをドサーッとコップに入れて一気にあおっていた。

と回想している。

 

このステキな笑顔は薬の多量摂取によるものだったのか。

そう言われてみれば、疲れているような顔つき、目のくまなどを見るにロクな生活を送っているとは思えない。

「林さん、もう会うこともないかもしれないけど、太宰さんと同じような写真を撮ってもらったんで、僕はもういつ死んでもいいんだよ」

「縁起の悪いこと言わないでくださいよ。まだ、あなたは若いんだし、これからじゃないですか」

「いや、もういつ死んでもいいんだ」ってしきりに呟いていました。

それから、一週間か10日ぐらいか、まもなくでした。太宰の墓前で、田中英光さんが自殺したとニュースを聞きました。あの夜の情景がうかびあがって、田中英光はやっぱり、あのとき、もう死を決意していたのかもしれないと思うと、あけがたまで眠れませんでした。

 

写真一枚とこの文章を見て、死を決意した田中英光の影を感じ取らずにはいられない。良い写真はすごい。色々感じ取らせてくれるからすごい。ビデオで撮られた動画より、ギュッと濃縮されている。どちらが良い悪いではなく、短歌と小説のような関係性だ。どちらも素晴らしい。

そして残る。太宰治と同じような写真を撮ってもらったからいつ死んでもいいんだと田中英光が言った。barルパンで撮影された太宰の写真と同じような格好できめた田中英光の写真は残る。

 

三島由紀夫

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初めて三島由紀夫のことを知ったのは小学生の頃だったか、はたまた中学生の頃だったか。宴のあと - Wikipedia事件と三島事件 - Wikipediaが社会科の教科書でほんのすこしだけ触れられており興味を持った。その時は好きになるなんて思ってもいなかったし、こんな死に方をするなんて馬鹿げていると思ったが、本を読むうちに変わってきた。一年前後輩に貸した『不道徳教育講座』、はやく帰ってこい。

 

この本で三島の写真は7枚取り上げられている。大体の作家が1,2枚の中、一番多い方なんじゃないか。

 

50すぎてひとかどの人物であれば、下町の職人であろうと、だれであろうと、その中でも一流といわれるほどの人は絶対にどこかいい顔をするんですね。箔がつくというのか、顔に年輪がつくといいますか。(中略)ところが、実に不思議なことに、三島由紀夫さんだけは、この「顔」のきまりが、あてはまらなかった。名声にまだ顔がついていかなかったといえばいいのか。そういう風に感じたのは三島由紀夫さんだけでしたね。

 

これを読んで、三島由紀夫の写真を漁って見てみた。

(ちなみにグーグルであればフィルターをかけないと三島が自決した時の首の写真が出てくるので注意。そこまでグロテスクではないものの、以前引っかかってトラウマを植え付けられた。昔は週刊誌にもこういった写真を載せていたんだから時代の違いを感じる。)

 

三島の顔は貫禄や威厳があまり感じられず、これは若々しいという言葉では片付けられない。

林氏も言及しているが、お坊ちゃん育ちで、元来病弱。体の線も細い。

劣等感が常にあり、自分を大きく見せようとする気持ちが人一倍強かったのではないか。だからボディビルをして体を大きくしようとしたりして。挙げ句の果てには割腹自殺をしてしまった。

もしも彼の身長が180センチくらいあり、筋骨隆々だったら無理に自分を大きく見せようとせず、あんな死を遂げずに済んだのかもしれない。そう思うとなんだかさみしい。

 

歴史や人生に「もしも」などなく、過去を変えることもできないから、「もしも」について考えること自体野暮なんだろう。しかしやっぱり考えてしまうんだ。三島のことだけじゃなくて、ありとあらゆること自分のことも。少しナーバスになった。

 

 

 

 

というわけでとても面白い一冊であります。

顔が好みな吉行淳之介の写真も載っていて嬉しい。詩人だからか萩原朔太郎は載っていない。

 

林 忠彦写真集 日本の作家 (サライムック)

林 忠彦写真集 日本の作家 (サライムック)

 

 

 これと併せて読むともっと良いです。